「特定技能の申請で、入管から『本人が理解しているか疑わしい』と補正指示が来た」
「『そんなルール聞いていない!』と、退職時に未払い残業代や解雇予告手当を請求された」
飲食店の入社手続きにおいて、外国人スタッフとの「契約」は、日本人以上に慎重に行う必要があります。なぜなら、彼らにとって日本の労働法は未知の世界であり、「言葉の壁」を理由に後から契約の無効を主張されるリスクがあるからです。
特に特定技能制度では、「本人が十分に理解できる言語での説明」が法的義務となっています。今回は、行政書士や労基署に指摘されないための、鉄壁の入社手続きチェックリストと「母国語併記」のポイントを解説します。
1. 結論:特定技能は「母国語併記」が法的義務です

日本人を雇う際は日本語の契約書だけで十分ですが、外国人の場合は以下のルールが適用されます。
- 特定技能・技能実習: 母国語併記(または翻訳文の添付)が必須です。本人が内容を正しく理解し、合意したことを証明しなければビザの申請が通りません。
- アルバイト(留学生など): 法律上の義務ではありませんが、トラブル防止のために母国語での説明、または重要な条件(給与・時間)の併記を強く推奨します。
「翻訳を外注する予算がない」という場合は、出入国在留管理庁のホームページにある「二か国語併記の雇用契約書雛形(テンプレート)」をダウンロードして使いましょう。
2. 飲食店が「母国語」で明確に伝えるべき4項目

契約書全体を翻訳するのが大変でも、以下の4点だけは必ず母国語(または極めて平易な日本語)で説明し、理解したことを確認してください。
① 給与の「額面」と「手取り」の差
外国人スタッフにとって、日本の「天引き」文化は不信感の種です。
- 基本給: ○○円
- 控除(引かれるもの): 社会保険、所得税、住民税、寮費(家賃・光熱費)
- 手取り: 約○○円
この計算式を紙に書いて見せます。特に「寮費」の天引きについては、「賃金控除に関する労使協定」を結んだ上で、本人に納得させることが法的にも必須です。
② 休憩時間と残業代
- 休憩: 6時間超なら45分、8時間超なら1時間、必ず取らせることを約束します。
- 残業: 25%増しの割増賃金が出ることを説明します。
③ 解雇・退職のルール(出口戦略)
- 自己都合退職: 「辞める時は、少なくとも30日前に言ってください」というルールを伝えます。
- 解雇事由: 「無断欠勤が続いた場合」「盗み(まかないの持ち出し等)をした場合」などは契約解除になることを厳しく伝えます。
④ 従事する「業務内容」
特定技能「外食業」の場合、レジ、接客、調理、清掃など幅広い業務が可能ですが、「デリバリー(配達)」や「チラシ配り」は原則NGです。契約書に書いていない業務を無理やりやらせると、不法就労とみなされる恐れがあります。
3. 入社手続きチェックリスト(事務担当用)

| 順序 | 項目 | 内容・注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 在留カードの確認 | 表面の「期限」と裏面の「資格外活動許可(留学生の場合)」を確認。コピーを取る。 |
| 2 | パスポートの確認 | 本人確認と有効期限の確認。 |
| 3 | 雇用契約書(母国語併記) | 内容を説明し、本人の署名(自筆サイン)をもらう。 |
| 4 | 雇用条件書(母国語併記) | 勤務時間、休日、給与などの詳細。1部を本人に渡す。 |
| 5 | 賃金控除に関する協定書 | 寮費などを天引きする場合に必須。 |
| 6 | マイナンバーの確認 | 手続きに必要であることを説明して収集。 |
| 7 | 誓約書 | 身だしなみ、SNSへの投稿禁止、個人情報の保護など。 |
4. 翻訳ツールを活用した「説明」の裏ワザ

独自のルール(まかないルール等)を説明したい場合は、DeepLなどを活用してください。
- 日本語で短い文章を作る。
- ベトナム語やミャンマー語に翻訳する。
- 「逆翻訳」して、元の意味からズレていないか確認する。
- そのテキストをプリントアウトして、契約書の横に補足資料として添付する。
これだけで、入管や労基署に対する「丁寧な説明を尽くしている」という強力なエビデンスになります。
まとめ:契約は「攻め」の防衛策
「外国人だから手続きが適当でもいい」という考えは、後に大きな火種となります。
- 特定技能は「母国語併記」の契約書を必ず使う。
- 「手取り額」と「辞める時のルール」を最優先で説明する。
- すべて自筆のサインをもらい、証拠として保管する。
「最初が肝心」です。入社時に厳格にルールを提示し、納得させることで、スタッフは「この店はしっかりしている」という安心感と緊張感を持って働き始めることができます。



